2008年4月4日(金)
高齢期運動リポート№59
後期高齢者医療制度の開始にあたって
2008年4月1日 篠崎次男
数々の成果を確認しよう。
運動に協力した人・団体、参加した人・団体に報告活動を展開しよう。
引き続き市区町村に対する改善運動を積み上げよう。
制度の中止を引き続き求めていこう。
1 引き続き闘いを
2008年4月1日、後期高齢者医療制度は施行されました。3割におよぶ地方自治体の議会での中止・凍結をもとめる意見採択。野党4党の中止をもとめる法案の共同提案など、差別医療への激しい抗議が巻き起こるなかで、厚生労働省と自民・公明の与党は、制度の施行を強行しました。
政府・与党は聞く耳を持たない。闘いが通じない。このように考えるのか、事態を冷静に見つめて闘いの成果を確認し、社会保障運動への熱い信頼のもと、新しい段階での闘いに取り組むのか、私たちは二つの道の選択をせまられています。
あきらめて天下の悪法を容認する道をすすむのか、更に闘いを続け安心の老後豊かな社会保障制度をつくり上げていく道を歩み続けるのか、選択をせまられています。
私たちはもちろん闘う道を歩みます。
2 保険給付の削減へ
まず、後期高齢者医療制度のこれまでの闘いの道を振り返りましょう。
この方針が厚生労働省から本格的に提起されたのは、2005年10月でした。当時厚生労働省は、新設する後期高齢者医療制度について盛り込むべき内容をいろいろ考えていました。考え方の基本は、75歳以上の高齢者への社会保険給付費の大幅な削減です。ついで65歳から74歳までの前期高齢者、とくに団塊の世代と言われる高齢者の国保加入による、他の医療保険財政との格差の増大にそなえるための措置を盛り込む。それらをこめての後期高齢者医療制度づくりでした。
3 当初計画にあって撤回したもの
その保険給付の削減です。最初厚生労働省が新制度に盛り込む予定であった削減策のうち、導入を断念させてものがいくつかあります。
1)保険免責制度
一番大きいのは、保険免責制度の導入を断念させたことです。1回の受診での診療費のうち、保険給付の対象にしない金額を設定する。たとえば免責額を2000円とする。その場合受診日の診療費が4000円だとする。まず2000円は自己負担。残りの2000円の1割負担で200円。総計で2200円が窓口負担負担となる。3割負担だと2600円となる。この保険免責制度は導入しませんでした。
2)ホテル機能全部保険外
第2に、入院の際のホテル機能サービス保険給付外問題です。具体化は食費と部屋代の一部負担制でした。ホテル機能だとこれに看護料、入浴・体の清拭などヘルパーのサービス料なども含まれます。要するに在宅と同じサービスしか提供しないというのが政府の意図する内容でした。
3)徹底した包括医療
第3に、外来医療の包括制、完全主治医制の導入も計画にありました。包括制とは、1日あるいは1カ月○○円で、すべての診断治療を行うというものです。具体化では、患者の選択のもと、診察と検査料が月6000円とするという部分的包括制に止めました。主治医制も、患者に1名登録させる。主治医以外の受診は制限する。これも他の医療機関への受診制限を阻止しました。
4)予防と保険料引上げの連結制
第4に、国保や他の医療保険からの支援金の徴収法も最初の予定通りにはなっていません。2008年4月からスタートした生活習慣病対策としての医療保険者が実施する特定健診・特定保健指導の受診率が33%以下だと、10%を上限に支援金の上積みを義務づける。在宅看取り(自宅で半年から1年療養して自宅で死んでいく)率が低いと支援金の上積みを義務化する。これは健診率が低い場合は平成25年度の状況で実施する、に後退させました。在宅看取り率については導入を見合わせています。もしこれが当初の予定通り導入されていたら、国保も他の公的医療保険も、毎年1割を上限に保険料の引上げが自動的に実施されることになっていたかもしれません。
5)法律成立後も修正が
法律が国会で成立したあとからもいくつかの修正を政府はしています。安倍内閣が参議院選挙で大敗しました。その直後の福田内閣では、自己負担の1年間の「凍結」を打ちだしました。具体的に①70歳から74歳までの自己負担2割への引上げを2007年10月実施を平成20年度の1年間凍結。後期高齢者医療制度における被用者保険の被扶養者であった者の保険料徴収を平成20年4月から9月までの半年間凍結、10月から翌年の半年間は応益割は9割の負担とする。
6)執行前にも譲歩を
この保険は都道府県ごとに組織された広域連合が運営します。昨年の11月に保険料 率がきめられました。その結果、保険料が当初予定より高額になる都道府県がたくさん生まれました。これへの苦情も多くだされています。そのため東京都では、所得の低い高齢世帯の保険料を若干引き下げました。
7)松山市では差額補填
愛媛県松山市の市議会は市長の提案により、保険料への補助制度を可決しました。松山市では、年収153万円以下の高齢者の保険料が国保の保険料よりも上回っていました。そこでこの層にたいして、後期高齢者と国保との保険料の差額を市が負担することになりました。年間6500万円の予算がその費用として計上されました。制度が動きだす直前になっての措置は異例です。おそらく細かく点検していくと、市区町村の多様な補助・負担軽減策がとられていることと思います。(成果をお知らせください)
8)闘う連帯づくりも前進
この間に私たちは、地域のいろいろな人びとや団体に共同の取り組みを呼びかけてきました。老人会、町内会、地区医師会、いろいろ労働組合等にも呼びかけました。これからの運動につながる運帯も培われつつあります。
ひとびととの連帯の輪が一回り大きくなりました。
制度全体をいまのところ中止には追い込めませんでしたが、かなりの譲歩を実現させています。これらは闘いがなかったら実現しません。2005年10月以降の私たちの果敢な闘いなしに、これだけの譲歩や人びととの連帯は勝ち取れません。
社会保障運動の意義と意味について、あらためて再確認すべきです。元気になります。
4 闘いを更に発展させよ
しっかり成果の確認をしよう。
闘いの経過と成果を、地域と諸団体に報告し、お礼をしよう。
新制度の、より深く正確に理解するための学習会を開こう。
2008年4月1日を期して、私たちは新たな闘いに挑まねばなりません。
第1に、これまで多くの人びと団体の協力をえてきました。署名に賛同してくれた人、学習会に参加してくれた人、多くの団体に、これまでの経過と結果について報告せねばなりません。どこまで運動が拡がったか、譲歩を勝ち取ったかなどについてはしっかり報告し、協力に謝意をあらわすべきです。
第2に,それぞれの団体で、1つの区切りをつけるに際して、運動の到達点と政府や自治体に実現させた譲歩・成果についても報告し、運動してきたことの意義についても認識を深める。各団体ごとに、構成員と成果の確認をし合うことは次なる闘いへの準備としても大切です。
第3に、正確に新制度について、とくに医療内容については未知の部分もあります。再学習会を開催し、内容を深く知る機会も持つべきです。
5 自治体行動を積み上げよう
市区町村への働き掛けを持続的に、しかも強力に展開する。
1)保険料間題の取り組み
松山市の例にもあるごとく、国保保険料との差額を市区町村が補填する。そのため、都道府県ごとにきめられた保険料率に従い、市区町村ごとの保険料の実態について公開させる。とりあえずの要求として、国保保険料の差額が出ていたらその差額を補填させる。一般的には、低所得者が負担増になっています。差額の補填は正当な要求です。
天引きすることのできない無年金者・低年金者から、保険料の徴収をしていいのか。市民にも市区町村にも議会にも率直に問題提起をする。ましてや滞納者はすべて悪質との規定のもと、保険証を交付しない措置はやめさせる。この階層の人びとの保険料を市区町村が負担する。そんな補助制度も要請すべきです。
保険料の減免制度の確立にむけて、広域連合への陳情・署名での要請行動を強める。
2)病床削減間題の重視を
市区町村では、すでに都道府県に削減の対象になる医療機関と病床数についての報告がなされています。その原資料の公開を求めねぱなりません。
・ まずその前提となるべき都道府県医療費適正化計画のもとになる、市区町村の数字 の公表をもとめます。高齢者医療確保法第8条に基づき国が提示する「医療費適正化に関する施策についての基本的な方針」では、都道府県が保険給付費を削減するための目標値が示されています。削減目標値・その方法・計画・医療費の調査などが盛り込まれることになっています。都道府県ではこの計画を4月中にすることになっています。ということはその原資料が3月中に市区町村から都道府県にあげられています。その数字を明らかにする。
・ 生活習慣病患者の医療費をどの程度削減するのか。後期と前期の高齢者の医療費をどこまで削減するか。そのため高齢者むけの療養型病床を幾つ削減するかなどが示されています。
・ 介護保険で入院できる病床が、市区町村内のどの医療機関に幾つの病床があるのか。これは数年先に全廃が予定されています。
・ 医療保険で入院できる療養型病床が、市区町村内のどの医療機関に幾つの病床があり、そのうちどこの医療機関から幾つ削減するのか。
・ 市区町村内の高齢者の平均在院日数が2007年10月現在何日だったのか。それが何日短縮するのか。この数字も公開させる。
・ その結果として、市区町村からどの程度の病床がなくなるのか。まず計画にのせられた数字の公開を求めます。
・ 厚生労働省は当初平成18年時点で35万床(医療療養病床23万床・介護療養病床12万床)あり、それを15万床まで削減するとしていました。都道府県から出された計画は、国のこの数値を上回る数であったと伝えられています。市区町村から都道府県にあげられた数字を公開させる必要があります。
・ 病床削減については強い批判がよせられています。国は多少の譲歩もやむを得ないと言ってもいます。その国の計画を上回る数値を市区町村が出していたとするなら、撤回させねばなりません。
・ 更に、削減の結果地域のどのような不安が拡がるか、市区町村の予測と対応策の有無について質す。
・ 市区町村の責任で、市内の医療機関に高齢者用緊急入院用病床を確保させる。
・ 住民が入院先が見つからず困っている事態が生じたら、電話相談を受ける制度も作らせる。一人暮らし二人暮らしの高齢世帯にはその電話番号を張り出させて,いつでも電話できる体制も整備させる。(孤独死防止にも役立つ)。動物愛護法では市区町村に犬と猫に限りますが施設に収容する義務が課せられています。高齢者にもこのような制度があって当然です。
具体的な要求で、くりかえし、くりかえし、市区町村に働きかけよう。
各団体こぞって仲間増やしをすすめ、ひとりぼっちの高齢者を無くそう。
6 次に備えよう
国と与党は、次なる社会保障の改悪を企てています。
1)消費税の税率引上げ阻止を
消費税の税率引上げが声高に叫ばれています。後期高齢者の医療・介護・年金の財源問題としての消費税論議です。高齢者医療を闘う力と消費税引上げ阻止を闘う力を結合させて大きな国民運動に発展させよう。
2)国民医療への拡大阻止
食費や部屋代の負担は若い世代にも拡大は必至です。2年先の診療報酬制度での包括制・保険免責制など完全導入もあり得ます。
若い世代との連帯を強め、後期高齢者医療モデルの拡大を許さない闘いを強め、後期高齢者医療の改善につなげていこう。
○ 後期高齢者医療制度の中止を強く要求しよう。
○ 後期高齢者医療制度で後期高齢者の生活と健康への被害をださない活動を強化しよう。
○ 弊害事例を集め、政府へ突きつけ、改善につなげよう。
○ 仲間増やしで、ひとりぼっちを無くそう。
以上、篠崎次男顧問の高齢期運動リポートをお届けしました。
日本高齢者運動連絡会 事務局長 山田栄作
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